期待値

 

期待値の計算は工夫の仕方がいろいろあります。次の問題を考えてみましょう。

 

 問題

確率pで表が出るコインがあります。このコインを投げる操作を繰り返し,2回連続で表が出たらそこで操作を終了します。投げる回数の期待値を求めて下さい。

 

 解法1

まずは,何も考えずに突き進むとどうなるかお見せいたします。

n回目で操作が終了する確率をa_nとおくと,a_nの一般項は

{\displaystyle a_n=\frac{p^2\left(\left(\frac{1-p+\sqrt{(1-p)(1+3p)}}{2}\right)^{n-1}-\left(\frac{1-p-\sqrt{(1-p)(1+3p)}}{2}\right)^{n-1}\right)}{\sqrt{(1-p)(1+3p)}}}

よって求める期待値は

{\displaystyle \sum_{k = 1}^\infty ka_k = \sum_{k=1}^\infty\frac{kp^2\left(\left(\frac{1-p+\sqrt{(1-p)(1+3p)}}{2}\right)^{k-1}-\left(\frac{1-p-\sqrt{(1-p)(1+3p)}}{2}\right)^{k-1}\right)}{\sqrt{(1-p)(1+3p)}} = \frac{1+p}{p^2}}

一般項を求めるために3項間漸化式を解き,級数の収束値を求めるために(1-x)S法(等差数列と等比数列の積の級数S=1+2x+3x^2+4x^3+\dotsを求めるときにSをx倍してもとの級数Sから引く手法)を使いました。かなり面倒な計算でした。

でもなんとか答えは求まりました。\frac{1+p}{p^2}です。

 

実はこの問題には,工夫して解く方法があります。

 

期待値は,条件付き期待値の重み付き平均として表すことができます。つまり,全ての場合がA, B, …と場合分けされるとき,

E(X) = P(A)E_A(X) + P(B)E_B(X) + \dots

ということです。

 

簡単な例を出すと,サイコロを振ったとき

出た目が5以下である確率は\frac{5}{6}。出た目が5以下だったときの出た目の期待値は\frac{1+2+3+4+5}{5}=3

出た目が6である確率は\frac{1}{6}。出た目が6であったときの出た目の期待値は6(当たり前)。

出た目の期待値は\frac{1+2+3+4+5+6}{6}=\frac{7}{2}

です。出た目を確率変数Xでおき,出た目が5以下であった事象をA,6であった事象をBと表すと,これは

 P(A)=\frac{5}{6} E_A(X)=3

 P(B)=\frac{1}{6} E_B(X)=6

 E(X)=\frac{7}{2}

という数式で表現することができます。そしてこのとき,

 P(A)E_A(X) + P(B)P_B(X) = \frac{7}{2} = E(X)

が成り立っています。

 

このように,各平均の重み付き平均で全体の平均を求めるのと同じように,各場合の期待値の重み付き平均で全体の期待値を求めることができます。

 

コインの問題に戻ります。

この場合,場合分けして期待値を求めることはできませんが,いくつかの場合の期待値を,全体の期待値E(X)の式で表すことができます。すると,E(X)の式で表された各場合の期待値の重み付き平均を左辺に,全体の期待値E(X)を右辺において方程式を立てて解くことで,E(X)の値を求めることができます。

実際にやってみます。

 

解法2

投げる回数を確率変数Xでおき,最初に2回連続で表が出る事象をA,最初に表が出て次に裏が出る事象をB,最初に裏が出る事象をCと表すと,

\displaystyle P(A)=p^2

\displaystyle E_A(X)=2

\displaystyle P(B)=p(1-p)

\displaystyle E_B(X)=E(X)+2 (既に2回投げているが,この後いつ2回連続で表が出るかどうかについては最初の状況と変わらないので)

\displaystyle P(C)=1-p

\displaystyle E_C(X)=E(X)+1 (既に1回投げているが,この後いつ2回連続で表が出るかどうかについては最初の状況と変わらないので)

よって

\displaystyle 2p^2 + p(1-p)(E(X)+2) + (1-p)(E(X)+1) = E(X)

という方程式が立ちます。これを解くとなんと

\displaystyle E(X)=\frac{p+1}{p^2}

が得られるのです。

 

このように,期待値の計算においては工夫の仕方がいろいろあります。

それをうまく利用すれば,一見すると難しい問題も簡単に解けることがあります。

特にこの重み付き平均の考え方は強力です。

 

類題を上げておきます。

類題1

xy平面上の格子点のうち,x座標とy座標がともに偶数であるものが落とし穴になっている。落とし穴でないランダムな格子点に動く点Pくんが現れ,上下左右の格子点のどれかにランダムに移動することを繰り返す。動く点Pくんが落とし穴に落ちるまでに動く回数の期待値を求めよ。

 

この記事があなたの参考になれば幸いです。